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「おとぎ話みたいに扱われてきた伝説級の魔術。正確な個数すら伝えられる事無く数世紀――……」
山崎が語りモードに突入する。
今から酒が入る事を加味すると若干の疲労感をすでに覚えた。
「――九条はロストマジックを幾つ保持してんだ?」
話に横やりを入れられた形
の山崎は不服そうな顔をしながら口を開く。
「一つだと思いますよ。幻覚系統のロストマジック。発音が前提にされていない"魔法"ですからね。幾つも持ってちゃ協会も運命の輪も黙っちゃ居ませんよ」
そう言って山崎は苦笑する。
「久遠のロストマジックは有名だったが、まさか九条も持ってたとはな」
知らなかった、と呟きビールを煽る。
つまみも一つ。
「久遠は特別ですからね、継承でも何でも無く、生まれ持つタイプ。次出てくるのは一体いつになるのか……」
「他の家も持ってるかもな」
「魔術じゃ無く魔法と評されるのがベターとされる存在ですからね。まあ、魔術が幾つの系統に分かれてたかも分かって無いですからね」
「確かに、ロストマジックの数なんて想像も付かないな」
「大ざっぱに十個程度に分けられていたってのが定説らしいですけどね」
それぐらい知ってる。とだけ返して、酒と思考に集中する。
起源の魔術。
起源の魔法。
どの表現が適切なのか。
幻覚系統は個人的に必要な知識だ。
必要なら他のロストマジックも細々と情報を集めてみようか。
ふと。
疑問が湧く。
「そういや、九条のソレ、効果は聞いたか?」
幻覚系統は術者と被術者の一対一の共有物、その情報が他に渡るには術者が喋るか被術者が生きているかが必要な条件だが。
「あくまで噂ですが、幻覚で心を壊して、また正常に戻してを無限に繰り返すとか。魅せられるのは地獄での拷問だとか」
……何も聞かなかった事にして俺は酒を煽る。
山崎もそれに倣った。くだらない話題が幾つも持ちあがる。
夜はゆっくり更けていく。
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