ショウタイ

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 自前のスーツの中で最も上等の物に袖を通す。  自然、背筋が伸びる。  これは果たしてスーツの力か、緊張のせいか……。 「準備できたか?」  玄関から聞こえた市原の声に、おう、とだけ返す。 「馬子にも衣装だな」 「うるせえ、さっさと行くぞ」  マンションの駐車場に到着すると直ぐに市原の車だと分かる車が一台。  日本製の高級車だ。  年収が億越えの一流の魔力持ちは持ち物も違う。 「おら、さっさと乗れ」  助手席側に立つ俺に向かって運転席側から市原が声を掛ける。  この辺りで、俺は自分の今日の予定をもう一度考え直し、一つの提案を。 「なあ、やっぱり今日は止めとこう」 「さっさと乗れ。九条邸に招かれておいそれと断るわけにもいかんだろ」  シバにも迷惑が掛かるかもしれない。  その最後のひと押しにやられた俺は素直に助手席に乗り込んだ。  重めのエンジン音は静かに居座っていた車に命を吹き込んだ様にも、俺を死地へと誘う悪魔の囁きにも聞こえる。 「それにしても娘助けただけでこんな事になるなんてな。お礼って何だろ」 「どうせ、ライセンスだろ」  車に乗って二十分が経過している。  地味に遠いんだからてめえが勝手に来やがれ。  実際来られても困るので口にはしないが。 「ほら、あそこのでかいのが九条の家だ」  少し前には俺も何度か目にした事のある立派な家が合った。  これはえらい金を掛けてやがる。 「あと、お前九条に手は出すなよ。あそこの親父おっか無いから。ちなみにこれ椎名さんからのお達しな」 「分かってるよ」  苦笑しながら言葉を返すと、運転席の市原が僅かに顔を歪めた。 「どうした?」 「お前……随分歓迎されてるな」  話の全容がつかみ切れず、市原の視線を追い、屋敷の方を向く。 「――お出迎えだ」  目算およそ十五人、スーツの集団が綺麗に整列していた。  
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