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思い出せば思い出すほど市原悪いじゃないか。
隣の市原を睨みつけるが、本人はこちらを見る事も無く苦々しく、呟くように口を開く。
「あの真ん中で背筋伸ばしてる爺さんが九条管理区で九条夫妻に次ぐ実力者――田中さんだ」
高まる緊張感を台無しにする耳慣れた名字に思わず脱力。
「えらく、一般的な名前だな」
「後天組らしい」
車は九条邸の門の手前、大勢の執事風の男たちの前に到着する。
「とはいえ、実力は数字持ちに混ざっても遜色ないレベルだ」
ここにきて今度こそ俺は、いつものように無視しとけば良かったと心の底から後悔した。
そんなやり取りの中、件の田中さんが車に近寄り、運転席の窓をノックする。
「市原さんはいつものように車庫に車を回してください。山田さんはここでお降り頂きます」
市原が無言で俺の方を向き顎をしゃくる。降りろ、ということらしい。
見るからに不機嫌そうな表情。
まあ、市原への対応をみればその反応も分からなくはないが……。
「さあ、こちらへ」
車から降りると田中さんに先導され大きな門を通る。洋風の城の様な家と門の間には、綺麗に手入れされた庭が広がる。
ふらり、と強力な魔力に当てられたような陶酔感が去来するが一瞬で過ぎ去った。
ぐるりと見渡すと、門から少し離れたところに白く綺麗な猫が居た。
へー、と思わず口に出す。
「どうかしましたか?」
出迎えに出ていた若い衆を撤退させ、自分で案内役を買って出てくれた田中さんに無
意識の言葉を拾われた。
「いやー、綺麗な猫だな、と」
俺の実家にも少々特別な白い猫が居るが、それと同じくらいに綺麗だ。
「まるで人形みたいですね」
田中さんに笑顔でそう告げる。
俺としては褒め言葉のつもりだったのだが、好々爺然とした背の低いスーツ姿の男は驚いた顔でこちらを見てい
た。
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