382人が本棚に入れています
本棚に追加
これは、まさか九条の所有物を悪く言った、という風に取られてしまったか?
それは非常に不味い。
フランス人形のようにかわいいお子様ですね、的なニュアンスをこの老人が読み取った気配は無い。
流石にプロ。驚きの表情を隠し、玄関へと歩みを進める。
もしも告げ口などされ様物ならいったい俺はどうなってしまうのか。
慌てて何か褒める場所を探す。
広い庭。管理の意き渡った花々。雰囲気としては噴水が合ってもなんら違和感は無い。
さて、どこをどう褒めるか。花を褒めたいが名前も分からない。
庭の花々とマッチする様に置かれた天使の銅像。かなり高そうだ。
褒めるならこれしかない。
室内に入るまでに残された唯一の名誉挽回のチャンス。
「それにしても田中さん。あの天使の銅像。立派ですね今にも動き出しそうじゃないですか」
side change:田中
田中が九条のトップ、九条仁から依頼を受けたのは丁度一週間前。
九条管理区では珍しい管理者の個人的なご指名。
仁を生まれた頃から知る田中はすぐに気付く。
これはヒトミの事に違いない。
「娘の恩人を値踏みして欲しいんです」
「値踏みなんて失礼なことしないで、素直に礼をした方がいいんじゃないかい?」
「ヒトミ曰くフリーなのに凄く優秀らしいんですよ。だから実力が伴うならA級のライセンスでもあげようかなって」
ライセンス授与に妥当かの判断なら何も田中に頼む必要はない。
「それに、どうもヒトミがその男に若干好意を抱いてるような雰囲気が有りまして」
このような理由があるのは概ね見当がついていた。
娘にちょっかいを出されては堪らないが、お礼はしたい。
普段の真面目さと、極度な親バカが同居するのはずいぶん難しいのが見て取れる。
馬鹿馬鹿しいと一蹴することも出来なくはないが生まれた頃から知るかわいい男の頼みをどうして断れようか。
何より、仁は気付いていないが、田中には九条の依頼を断るという選択肢が存在しない。
最初のコメントを投稿しよう!