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景色に大きな変化は無い。
普段はここに居るはずの無い白ネコが居る事くらいか。
これは同時に那花の異能の被害にあっている田中への準備完了のサイン。
異能持ちになる際、常識通り魔術の行使をする分の魔力を失っている那花は普段、攻撃には何かしらの道具を使用する。
言い換えれば、客人への試験において適切な攻撃手段は無い。
その為に、準備しているのが――。
「へー」
田中の隣で山田が間の抜けた声を上げる。
「どうかしましたか?」
「いやー、綺麗な猫だな、と」
田中の質問にもまたお気楽な答えが返される。
ライセンス相当の実力を計るには少々ハードルが高い自覚は田中にも合った。
とはいえ、幾ら招待された身とはいえ、出迎えでの過剰な対応というヒントを与えているにもかかわらず、この警戒心の無さ。
幸か不幸か過大評価か……。
キャリア五十年の田中ですらそう結論付けるのも仕方なかったかもしれない。
「まるで人形みたいですね」
笑顔を添えて、絶世の皮肉が寄せられるまでは。
――人形? 確かにあれは幻覚で作られた魔力の人形。
――いつから気付いていた?
――最初から?
――馬鹿な、そんな素振は見られなかった。
田中の中で色々な情報が駆け巡る。
那花の異能を見破った時点でA級のライセンスには十分すぎる実力。
再度厳正なライセンス用の試験をせずに済んだ事を考えれば、嬉しい誤算と言えない事も無い。
とはいえ、那花の異能に乗じて、もう一人の刺客。
田中の息子が天使のオブジェの幻覚となり、山田を射抜かんと狙いを定めている。
那花の異能に気付くことが出来た時点で試験のメインはこちらへ移る。
当初の予定では、客人への攻撃は回避できる可能性の低さから速いだけで威力の無い水を頬に掠らせる程度。
これならば、相手が実力不足で異能に対応できなかった場合には、有耶無耶にしやすい。
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