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一体。
何が起きたというのか。
天使の置物を褒めた直後。
目の前の老人は俺に向けて頭を下げた。
何故だ? あれは触れちゃいけない様な物だったのか?
不安が駆け巡る。
門を潜ってから頭を下げられるまでの時間は僅か数十秒。
この礼に歓迎の趣は無く、渾身の謝罪だというのは明白。
そこまで考えた辺りで門を潜った瞬間感じた魔力の波をまた感じる。
「申し訳ない」
頭を下げたまま田中さんが言う。
天使の置物が合った筈の場所には小さめの池と、一人のおっさん。
白ネコはどこかに消え去っている。
「いや、あの、頭を上げてください」
「あそこのは儂の息子、この幻覚は儂の義理の娘の物」
幻覚?
田中さんの息子の後ろから、幻覚をしかけてくれたらしい女性がやってきた。
「大丈夫です。待たせるのも何ですから早く中に入りましょう」
夫婦揃いでこちらにやって来る。
一体、俺が何をされ、どうなったのか?
そんな事は後々市原にでも聞けばいい。
「すまなかった」
ほら、今度は息子バージョン。
横では奥さんも頭を下げている。
「大丈夫ですよ、『運命の輪』の一角。入場無料だとは思ってませんでしたから」
単純に許すだけではダメなパターン。
適度に皮肉を入れて返す
と、向こうは何とか引いてくれる。
どういう訳か俺はこういった状況の切り抜け方に関して、相応の手段を持っているらしい。
案の定、三人連れ立って指定の部屋に案内してくれた。
玄関に入ると広い空間に幾つかの部屋の入り口と、大きな階段が目に入る。
「それにしても山田君、噂には聞いていたが優秀だな久々にリアルに死ぬまでのイメージが湧いたよ」
そう言いながら笑う、細身の男。田中樹。
「君は一体何者だい?」
――教えておくれよ君の正体を。
何も答えないまま、俺は案内された部屋へ、入室した。
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