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お互い、簡単な自己紹介を済ませた後、和やかな昼食は滞りなく進められた。
ロストマジックの行使だとか、上限知らずの親馬鹿だとか、一体どこからそんな見当外れの認識が広まったのか。
九条仁は、人の上に長い間立ち続けた上で自分の現在地を見失わない十分な視野の広さを持っている。
当然といえば当然ではあるが、当然が当然として成立するというのはやはり不自然であり、その分九条仁の偉大さは浮き彫りになった。
二流三流と、一流連中との区別の方法。
魔力持ちの世界において、広く一般的で、客観的、そして、法的に認めら判別方法、それがライセンス。
そして、『一般人へ危険が及ぶ可能性が捨てきれない』レベルであるB級のライセンス
を持つ俺。
相手は日本は勿論世界でも有数の魔力持ち。
ライセンスにすら抑制されず魔術を行使できる位置に居る二人の男女が、俺に迷い無く頭を下げた衝撃はそれなりの物が合った。
「貴方が居なければ私たちは、一体どれほどの絶望を味わったことか……」
そう頭を下げたヒトミの母、九条麗香もまた、九条仁の横に並ぶだけの器量を備えている。
コンビニ弁当が日常と化しつつある俺の生活からは想像もつかない豪華な昼食。
この時ばかりは、礼儀作法にうるさかった実家の教えに感謝した。
「山田君、珈琲と、紅茶どっちがいい」
朝食を食べ終わり、しばらくするとそれらしき物を運ぶ、メイドのような女性が部屋に入ってきた。
迷わず、珈琲を選択する。
珈琲はすぐに渡された。
料理を運んで来てくれたのは最初からここに居る、若い女性達だけで田中さんはすでに姿を消している。
そういえば、市原も、顔を見て居ない。
「市原は今何処に居るんですか?」
入れられた珈琲を喉に流し、尋ねる。
九条はそれほど攻撃的な家系ではない。
そう判断できる以上市原の居る意味は帰りの運転程度のもので、聞く意味もないが、聞かない訳にもいかない。
「彼には、別室で田中さん達と一緒に僕らと同じ昼食をとってもらっているよ」
「ごめんなさいね。貴方一人と、直接お話しがしたかったものだから」
「でも、田中樹さんは椎名さんの同期で市原さんも仲が良いから心配ないですよ」
家族三人そろっての言い訳に思わず破顔。
ほのぼのとして居て、平和を感じさせられる。
声を出して笑うと、ヒトミが、もう、と口を尖らせた
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