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流石の市原も言葉に詰まる。
かく言う俺はというと、何とも言えない気持ち悪い汗を流している。
一体。
いつ気付いたというのか。
というより。
俺にヘマをしたという実感は無い。
今までどちらかと言えば当たり障りのない話しかしていないし、実際、食中の会話はヒトミによる俺の活躍の別側面からの解説だった。
まさか、そんな風に捉えるとは、と驚いたが、悪い意味での勘違いでは無かったので訂正もしなかったがそれが不味かったか……?
「まあ、ほぼ特定できてはいるんだよ」
俺がここでフルネームを知られて被る(こうむ)デメリットは比較的少ない。
本名を教えない不届き者として市原がどうにかなってしまうのは必要な犠牲と言う事で眼を瞑るが。
噂のロストマジックが俺に及んだ場合を考えるとここは市原には素直に喋ってもらうしかない。
「ヒトミから君の話を聞いて直ぐに協会に問い合わせたんだ」
こちらに確認を窺う市原に頷き、ゴーサインを出す。
ここまで来て嘘を付き通すのは無茶が過ぎる。
「司馬平次です」
「司馬と言うと、やっぱり?」
黙って成り行きを見ていた麗香さんが市原に声を掛けた。
「私達と同じく『運命の輪』、関西全域を管轄する『西の司馬』の人間です」
「やっぱり誠さんの子か。次男はヒトミと同い年だって言ってたからほぼ間違いないとは思ってたんだ」
呆気に取られ置いてけぼりをくらっている田中翁とヒトミへの説明も無いままに話は続けられる。
「桔梗は元気にしてる? 私ね、貴方のお母さんと同じ高校の同級生だったのよ」
麗香さんがそうほほ笑む。
自分の母親と同い年とは思えないほどに綺麗だ。
ほんわかし始めた場を改める為か、仁さんが居たく真剣な顔つきで話し始めた。
「初めは僕達が協会に問い合わせる事を想定したうえでの巧妙な詐欺の様なものかな、なんて思ってたんだよ」
九条の娘に迂闊に偽名を名乗ったあの時の自分に心中で舌打ち。
「自分の管轄都市に椎名や市原君が贔屓にしているという話は聞いていたんだが……」
そこで仁さんは言葉に詰ま
り、眉尻を下げた。
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