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魔力持ちとその才能を持った人間計五百万。
それを国が契約を求める程の戦闘力保持者(つまりA級ライセンスクラス)八百人で割る。
これでいけば魔力持ちの六千二百五十人に一人がA級ライセンス保持者。
かなりの高倍率ではあるがそこそこ数が多い。
化け物揃いのA級の連中を飼いならす『運命の輪』の存在がかなり大きな抑止力になってはいるが、それも上には上が居るというだけでA級の戦闘力は基本的に馬鹿げている。
稀に異能持ちの中でその希少さ故にA級に認定される奴もいるがそれは圧倒的少数派。
元来、A級ライセンス保持者は最弱クラスが単身で暴動を起こしても手薄な地域ならば被害は日本どころか世界全域に及ぶ。
そんな中、拳銃持った人間相手なら勝てない見込みの方が遥かに高い俺の実力を九条仁が知ったらどうなるのだろうか?
拷問だなんだという話を聞いた後、俺の実力を正直に話す勇気を俺は持っていない。
「……お前、それ本気で言ってるのか?」
長すぎる言い訳の間、誰も何も言わなかったが、市原がようやく口を開いた。
――そしてそれを皮切りにヒトミ以外の全員が笑いに包まれる。
「へ、平次君。幾らなんでも君のお爺さんを、ふ、普通の魔術師というのは語弊があるんじゃないか?」
我慢ならない。といった様子で笑いを必死に堪えながら仁さんが言う。
そんなけったいな冗談は今まで聞いた事も無い、老紳士然としていた田中翁はこれでもかというくらい、大口を開けて笑い続けている。
「天才で天災な魔力持ちを生む九条に、唯一生身で挑める人間だぜ、お前の爺さん。それを普通と呼ぶのは流石に……!!」
市原も、未だ笑いが収まる様子が無い。
結局。場が落ち着くまでに掛け時計の長針は三周する事になった。
「悪かったね、平次君」
謙虚に、気にしないで下さいと言ったが、内心の恥ずかしさは相当の物だ。
「それにしても、平次君も平次君よ」
「そうじゃ。幾らなんでも協会の序列一位、二位を久遠と争う男を引き合いに出して、普通と評するなんてそれこそ、ふ、普通じゃ無――」
そこから田中翁が笑いを抑える事が出来なくなった。
予想外に笑い上戸な爺らしい。
「済まないがそろそろ本来の本題に戻すよ」
九条仁の言葉によってようやく場は久々の静寂を取り戻した。
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