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「本来の?」
その意味するところはきっと現状の面会や対話を目的とした物では無く純粋なお礼にあるはずだ。
分かっていながらも俺はわざとらしく聞き返した。
「田中さん申請と登録は上手くいきましたか?」
九条仁の問いに田中翁はニヤリと年齢に似つかわしくない子供の様な笑みを見せた。
まったくもって関係性の読めない二人だ。
「そりゃ、勿論。九条の名前を出したらこの程度造作も無いわ」
しかも爺さんの手柄というより九条のネームバリューのお陰っぽいし。
申請と登録となると市原の言葉通り、ライセンスの可能性が高い。
市原との会話が無かったら、昇天ものの驚きだが、何とか自制する事も出来ている。
持て余すのは確実だが、あるのとないのとでは、依頼の収入に天と地と程の差が付く。
「司馬平次三等魔術師。四家当主、九条仁特等魔術師の推薦により一等魔術師への格上げを認める。それに伴いA級ライセンスを交付。B級ライセンスのその場での破棄を厳命。B級ライセンスの破棄を確認後、A級ライセンスは効力を発揮するものとする」
形式上の台詞の後、田中翁は一つの箱を俺に手渡す。
――いや、待て。
……一等魔術師!? 二等を飛ばして!?
本来、三等以下はB級ライセンス。
二等昇格後、仮免許的に準A級ライセンスが準備されるが、発言力の強い推薦者の場合はそれが免除される事も少なくない。
事実俺は勿論、市原でさえ、準A級は免除されるであろうことは予想できていた。
ただ、二等と一等には金銭面でこそ大きな差は無いものの実力面で何ともならない壁が有る。それ故これを最終目標にしている有能な魔力持ちも掃いて捨てるほどだ。
一等と特等には権力というこれまたどうしようもなく、大きな壁が存在するが、……って違う!!
こんな事を考えてる場合じゃない。一等と、二等では俺の死亡率が大きく変わってくる。
慌てて、周りを見渡すが、九条夫婦は揃ってドヤ顔。市原と田中翁は苦笑。ヒトミに至ってはやたら目をキラキラさせて俺を見ている。
「開けてみなさい」
諦めなさい、という風に聞こえてしまった自分の耳を妬ましく思いつつ、結局俺は文句を言う事さえ諦めた。
今までだってろくに依頼を受けた事が無いのだから突然何かが変わる訳でも無いか、という安直かつ現実的な脳内会議の結果だ。
改めて、田中翁から渡された木造りの箱を見る。
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