自己紹介

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「とりあえず殺しとくか?」 「部外者を殺すと報酬が三割も減るんだぞ」  岩崎だけに限定すれば俺の事はほぼ眼中にないらしい。  目撃者の消去だけを考えているようだ。  とりあえず誰かの依頼で動いている事だけは予測できた。  岩崎は殺すことで生じる報酬の減額を気にしているようだが、すでに俺を殺す事に対して妥協しているようにも見える。  妥協で殺される方の身にもなれ。たまんねえぞ。 「良いじゃねえか、こいつ殺しても須藤さんも分かってくれるさ、仕方ない状況なんだから」  淡い街灯の光でもよく分かるくらい岩崎があからさまに眉を顰めた。  依頼人か、仲介人か。とにかく出して欲しく無かった名前を簡単に出されたらしい。  タオパイパイじゃないんだから、そういう非現実的な会話は控えて頂きたい。  とはいえ、全てが悪い方向に向かっているという訳でも無い。  スリーマンセルで全員が共通して漏らしたくない情報を簡単に口にする奴が居る。  ――光明だ。  こういう馬鹿は上手く使えば意図せずこちらの味方になってくれる。  口角を持ち上げる。意識的に、だ。  万に一つも無かった勝ちの目がはっきり姿を見せた。  馬鹿ほど戦いやすい相手は無い。  捕まった女を助け、何とか三人を振り払う。全員、魔力持ちと推定する必要あり。  さすがに、まだまだ難易度が高い。 「おい、何がおかしい」  岩崎が口元を緩める俺に短く言葉を放つ。 「嫌、別に」  機嫌を損ねるのはまだ早い。 「……何にしろ依頼人の名前を聞かれた以上は、生かして返せん。大人しく殺されろ」  そんな身勝手極まりない理由で殺すのは勘弁願いたい。  そんでもってやっぱ同業者っぽいな、こいつら。依頼受けて人攫いだとか殺しだとかは日本でそう見る光景じゃないだろ。  ときどき見せる脇の甘さが生まれついて特殊なチカラを持ってた人間らしい。不遜、傲慢。隠しきれないプロは数多くとも隠そうともしない奴はそう多く無い。こいつら三人、調子に乗ってるだけだ。  最悪の状況は三人全員魔力持ち、最高の状況でも一人は魔力持ち。  俺の勘では岩崎と長髪の男は間違い無く魔力持ちだ。自分も使えなきゃここまで喧嘩腰にはなれるもんじゃない。  どうにか出来るか。  ポケットに手を入れジッポに触れる。落ち着け。考えろ。
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