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さすがに悟の姿を見ても心は少しも痛まないし、揺れはしない。
ただ、こうして同じ事務所に居るということに違和感を感じていた。
もう私の中で悟は完全に過去の人なのに不意に聞こえる声に反応してしまう。
いくら過去でもやっぱり多少のやり難さ、居心地の悪さは拭いきれないのかもしれない。
後ろめたさはないが、何となく距離を作ってしまう私に何故か悟の方から近づいてくる。
確かに悟が居た頃と人は変わり、知った顔も少なくなってきているのだから知っている私に何でも聞いてくるのは仕方ない。
久しぶりに見た悟の働く姿は、あの頃とちっとも変わらなくて懐かしく感じてしまう。
「三上さんて結婚してるんですかね」
また良からぬ興味に心引き込まれ、志帆が仕事の手を止めて私に耳打ちしてきた。
「してるはずだけど……」
口に出すと蘇る、あの時の苦く辛い思い出に胸がチクリと痛む。
もうあれから3年近く経ったのだから、あの時出来たと言っていた子供は2歳になっているだろう。
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