隣の鈴木さん

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「あら、その顔はどうやら分かったようね」 チョークを置いて黒板消しを手に取りながら鈴木さんは言った。 その顔には楽しげな笑みが浮かんでいる。 「もしかして、鈴木さんは何かの物語の主人公?」 自分で言ってから、かなり馬鹿らしいことを言ったと少しだけ恥ずかしくなった。 しかし、彼女はそれを馬鹿にするでも笑うでもなく、あっさりと認めた。 「ご名答よ。私は作者――私たちにとって神様みたいな人が今書いている小説の主人公。キャラは固まりつつあるけど名前がちゃんと決まっていないから、私は半分完成しているのにだいぶ不安定な存在なの。だから、(仮)。もしかしたら私は消されて新しい主人公が作られるかもしれないし、最悪この世界そのものが変わってしまうかもしれない。言っている意味、分かるかしら?」 さっき自分で書いたものを消して、彼女は僕を振り返った。 僕は黙って頷く。 普通だったら信じたりしないだろう、そんな話。 しかし、僕はすでに信じざるを得ないものを見ているのだ。 今も彼女の頭上に浮かぶ(仮)。 それが彼女の頭上にある限り、僕と鈴木さんがそれを認識している限り、僕はだいたいの不思議なことを信じれられるだろう、と思うのだった。
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