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溢れかえる道具の中から引っ張り出された一つの箱。
無事に探し物が見つかったのはいいとして、掘り返すだけ掘り返して、ただでさえ雑然としていた空間が見るも無残に散らかっていた。
それには気にも留めず、男はひょいひょいと散らかった惨状が目に見えていないかのような足取りで避けて、箱を手に亜子の前に戻ってくる。
出し物に使う箱とは明らかに違い細かな装飾の施された腕に抱えられる程度の大きさの箱。一見すると、まるで昔話に出てくる宝箱である。ファンタジーの世界で魔王を倒して手に出来る宝物や海賊が宝の地図を元に探し当てた金銀財宝が収められていてもおかしくない箱のフォルム。開けるだけで胸が高鳴りそうな代物ではあるが、亜子の現状は生憎該当しなかった。
近くにあった手頃な台に乗せて、箱に積もった埃を乱雑に払いのける。そして男が手にしていたステッキで軽くコンコンと叩いた。
カチャン
鍵が開く音が辺りに響く。
「開けてみなさい。」
亜子は箱の前に導かれて、言われるがまま箱に手を伸ばす。少し警戒しながらゆっくりと箱を開けた。
箱を開けてみればなんてことはない。中には沢山のチケットが入っているだけだった。しかし、ただのチケットでした、と話は終わらない。亜子が目にしたチケットは、時折自ら光を放つかのようにキラキラと星の瞬きにも似た輝きを見せ銀色に光る。
亜子は驚いて慌てて箱を閉めた。
「どうしたんだい?」
「い、今、光って!」
「チケットが?」
クスリと男に笑われて、亜子も自分で言ったセリフが一瞬恥ずかしくなった。
そう、中に入っていたのはチケット。それが光るわけがないのである。
目の錯覚?
亜子は再度箱を恐る恐る開ける。すると、先程見た輝きはなく、ただの茶色いチケットが箱の中にあるだけだった。
見間違い……よね。
亜子が箱を前にほっと胸を撫で下ろしていると、男が亜子の肩に手を置き、身を屈めて耳に顔を近づけた。
「何をそんなに安心しているのかな?」
男は愉快げに耳元で囁いた。顔を離すと同時にすっと亜子の首筋を手袋越しに撫でて、亜子の顔が強張るのを横目で笑った。
箱に手を伸ばし、男はまた閉めてしまう。
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