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ぐるぐると同じ光景、空間を何度目にしただろう。そんなに奥へ入った覚えはなかったのに、本当に外へ出れるのか急に不安になってくる。それでも今更引き返せない亜子は男の言った言葉を信じて、ハトの後を追う。
突如、追っていたハトが急に旋回を始めた。
亜子は歩みを止める。
テントの切れ間、亜子の前に出口がぱっくり口を開いていた。出口から新鮮な空気が流れ込んできている。
風になびく木々のざわめき。競って鳴く虫の声。
三十分前までいた外がひどく懐かしいと錯覚する。
亜子の足はぐんぐん外へと引き寄せられていった。
サーカスのテント内から亜子の姿が消える。出口をくぐった亜子の姿が消えたのを確認すると、白いハトは役目を終えて、鳴くこともなく無言で飛び去っていった。
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