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男が口笛を短く吹くと、上からぎこちなく羽ばたく音が響いてくる。羽ばたきに混ざってギギギギと軋む音が舞台や観客席に耳障りに空気が震え反響する。男の差し出した指にとまろうと、高度を落としながら不安定に飛びながら真っ直ぐに向かってくる。
木製の体に、まばらに白い羽が差してある。目には真っ赤に赤い石が埋め込まれた薄気味悪い鳥を象った人形。時折、ポタポタと得も知らない液体を滴らせて、点々と床に小さな染みを作る。
針金を巻き付けて造られた足が男の指を掴もうとした瞬間、風が横切ったと同時に人形が消える。
舞台場の床に人形が縫い止められていた。
ルディが投げた団扇の柄が人形の体を貫通し、床でギチギチ音を立てる。忌々しい表情でルディが人形を見て、歩み寄ると躊躇いなく踏み潰した。
「出来損ないの人形なら仕事終わらせたらさっさと消えろよ」
冷たい蔑んだ視線でルディは壊れた人形を踏みにじる。
「ククク……。ルディ、壊すのは構わないが片付けはまかせたよ」
ルディの肩越しに無惨に破壊された人形のなれの果てを覗き込む男の冷ややかな声に、ルディはしまったと弾かれたように振り返る。
「えーっ! オーナー!」
「君が散らかしたのだろう?」
「オーナー、ステッキでポンポン消せるじゃん!」
ルディの抗議の声に男はしばし考えて、にぃと笑って見せた。
見慣れているオーナーの笑いとはいえ、ルディの背筋に寒気が走る。
こういう笑いをする時は大抵ろくなことを考えていないとルディも知っていた。
「な、なになに、オーナー。団員イジめんのよそうよ」
「コレ、片さなくていい代わりここで一人で練習するというのはどうだろう?」
言われてルディが固まった。
「他の団員にも私が宣伝してあげよう。ルディが一人で熱心に練習をしている、と」
「だあぁぁぁーっ! 止めて止めて。そんなことしたら団員に笑い種にされんじゃん、俺!」
「サーカス内が和んでいいだろう?」
「万年アンニュイしてるくせして、なんでそこだけ団員を思いやる爽やか発想っ! そんなのオーナーじゃないっ!」
「フフフフフフ」
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