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ハプニング
昼休み。
中庭の植え込みの木陰で、亜子達は食後の一時(ひととき)を過ごしていた。天気のいい時はここで昼食を三人でとるのが日課となっていた。
季節柄、夏の日差しは容赦なく照りつけるが、作られた中庭が北に位置しているお陰で、日陰にさえ入っていればそう暑さを感じずに済んだ。むしろ人口密度の高い教室の方が今のシーズンは地獄である。
今日に限っていえば、風も校舎の間を吹き抜けて、実に心地よかった。
「はい、サーカスのチケット」
ちょうど一番食べるのが遅い雛子が広げたお弁当を片付け終わった頃、亜子は手にしていた赤いチケットをそれぞれ一枚ずつ、雛子と小百合に渡した。
「うむ。ご苦労であった」
「ありがとう、亜子ちゃん」
笑顔で受け取る二人に、亜子も悪い気はしない。喜んでもらえたのならば、嫌々とはいえ、わざわざチケットを買いに行った甲斐があったというもの。
「でもよく手に入ったね、亜子」
「えっ?」
小百合の思いがけない台詞に亜子は少し驚いた。
「うんうん。亜子ちゃん、私のクラスの子も買いに行ったらしいけど、チケット売り場閉まってたんだって」
「雛子のクラスの子もなんだ。うちのクラスの奴もだよ。だから、まさか亜子が買えてたとは思わなかった」
二人の話に亜子は少々納得する。確かに亜子が訪れた時もチケット売り場にはクローズドの文字があった。で、亜子なりにチケットを手に入れるべく奔走したわけだが、一から説明するのが面倒だと考えた亜子は完結に表現することにした。
「色々あって売ってもらった」
「亜子……」
「亜子ちゃん……」
「「端折りすぎ」」
見事にはもった雛子と小百合の声に、内心亜子は舌打ちする。説明するにも億劫なので、それで納得して欲しかった。
「サーカスの関係者っぽい人に売ってもらったの」
後ろ髪をくしゃくしゃとかきあげながら、亜子は面倒ながらも補足説明する。
「ぽい人?」
小首を傾げる雛子に亜子は大きく頷いた。
「そ、ぽい人。サーカスのテント内でシルクハット被って燕の尻尾みたいな服着てた」
「そりゃ確かにそういう表現したくもなるわな」
苦笑しつつ小百合は雛子と納得したように頷いた。
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