ハプニング

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 「ともあれ、手に入ったんだからよしとして下さい」  「勿論」  三人で顔を見合わせて、おかしくてクスクス笑う。  予鈴が校内に響き渡り、昼休みの終わりを告げる。  亜子の次の授業は体育だった。雛子や小百合を残して、足早にその場から立ち去ろうとして、不意に雛子に呼び止められる。  「亜子ちゃん、あのね、次の時間教科書忘れたから貸してほしいんだ。確か、亜子ちゃんのとこ世界史今日あったよね?」  「ああ、うん。ごめん、次、体育で急ぐから勝手に持っていっていいよ、雛子」  「ありがとう、亜子ちゃん」 二人に見送られながら、亜子は急いで教室へ戻って、手にしていたお弁当と体操服を持ちかえると更衣室に向かったのだった。  体育の授業が終わり、たった十分の休み時間の間に着替え、更衣室から教室へ移動。バタバタと行動してギリギリ次の授業のチャイムがなる前に教室へ入る。自分の机に戻って座り、ようやく一息ついたところで、チャイムが鳴った。ほぼ同時に、担任が教室へ入ってきて、次の時間がホームルームだったことを亜子は思い出した。  担任が嫌いな亜子は担任の授業が正に苦痛な時間でしなかった。  生徒の評判は悪い先生ではないのに、亜子に対しては扱いが違った。『気のせいだよ』と同じクラスの友達は言ってくれたが、亜子には気休めにすらならない言葉に思えた。  嫌われている――。  上手く表現できないが、なんとなく伝わってくるものが亜子にはあった。自分に対する嫌悪や敵意。  先生という仮面の下にうまく隠して、小さな嫌がらせの繰り返し。生徒という立場上、目立ったこともできず、学校という社会の中で頂点に君臨する先生という存在に屈伏せざるを得なかった。  現状を改善できるかもしれないが、下手に証拠もないのに騒ぎ立てれば、よくも悪くも桧山亜子という生徒の評判が広がるだけだった。それは亜子としてもよしとしなかった。だから亜子は三年間辛抱すると決めていた。  このホームルームが始まるまでは。
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