64人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「ち、違うっ! 私のじゃないっ!」
教室に亜子の悲鳴にも似た声が上がる。
教室は僅かに騒めいたが、すぐにシーンとなり、亜子に視線が集中する。
「違うもなにもお前の鞄から出てきたんだろう?」
「でも、違う!」
ホームルーム開始早々始まった持ち物検査。なんでも屋上でタバコの吸殻が見付かったとかで、急遽全クラスで行われることになったのだ。
特にまずい物を持っていない亜子は、突然の持ち物検査に慌てることはなかった。一部の生徒の間で悲観的な声が上がって、痛々しい声を上げただけあって雑誌や漫画本、ゲームなど次々先生に没収されていく。
横目でその光景に同情した。特に見られても不味い物を持ち合わせていなかった亜子は、自分の番が回ってきても堂々と鞄の中身を机にひっくり返して出してみせる。教科書やノート、見慣れた私物が机に姿を現していく中、コトと軽い音を立てて鞄の中から小さな箱が机に滑り落ちる。
……なに……これ。
亜子は固まった。机に落ちたあるはずのない物に視線が釘づけになる。
真新しいタバコの箱。
「桧山、これは何だ?」
「私、違う。」
「これは何だと聞いている」
低い声でわかっていて聞いてくる担任に、亜子は首を振った。
「私のじゃないっ!」
「お前の鞄から出てきたのにか?」
「きっと、だ、誰かが嫌がらせで入れたんです」
必死に訴える亜子とは対称的に、担任は亜子の話を全く信じていない口振りで亜子を侮蔑した視線を送る。
「『お前の』だろう。大体、誰かが嫌がらせで入れたって、桧山、お前は嫌がらせを受けるようなことをしているのか?」
卑屈に笑う担任に、亜子は悔しさにスカートを握りしめる。
信じてくれない。
信じるつもりなんてないんだ。
担任の態度にそう気付いて、亜子は俯いて唇を噛み締めた。
誰も助けてくれない。冷ややかな視線だけが自分を取り巻いて、自分だけが世界から切り離されたようだった。
「桧山、後で職員室に来なさい」
担任は亜子の机に転がったタバコの箱を没収すると、引き続き持ち物検査を続けた。
私のじゃないのに。
私のじゃないのに、どうして信じてくれないの。
ただ悔しくて悔しくて、亜子は自らの潔白を証明すらできない自分の非力さに嘆いた。
最初のコメントを投稿しよう!