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溢れてきそうになる涙をぐっとこらえて、ギリリと奥歯を噛み締める。
それから色々あり過ぎて、亜子の頭は回らなかった。自分じゃない誰かに起こっていることのように、麻痺した頭が他人事のようにみせてくれる。
職員室で散々説教されて、一連のタバコ事件も亜子が犯人と言わんばかりの不当な扱い。挙げ句には一番してほしくなかった保護者へ連絡。
きっとお母さんなら信じてくれる、お母さんなら……。
――本当ニ?――
ズクリとそこだけ鮮明に痛む胸に、刹那、不安が過っていく。
大丈夫。
お母さんは私の味方だから。
瞳を閉じて、亜子は何度も自分に言い聞かせる。次第に不安が払拭されていく。
ようやく職員室から解放された頃には下校時間も過ぎていた。校内には部活動帰りの生徒がまばらに残る程度だった。廊下で時折すれ違う生徒は賑やかで、まるで自分だけ違う場所に取り残されたように亜子は嫌でも錯覚する。
恨みがましく職員室を亜子は顧みる。
職員室のドア。はめ込まれた硝子ごしに職員室内で担任が笑っている顔が目に入る。
誰がタバコを亜子のカバンに入れたのかはわからない。入れた誰かは当然許せないが、亜子を信じず話を聞こうとしてくれなかった担任も同罪である。
亜子は行き場のない悔しさに拳を強く握り締めると、逃げ去るように学校を後にした。
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