黄昏の公園

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  束の間の無言。長く続くことはなく、男は淡々とした口調で亜子に語りかけた。  「私はビラを捨てられない。決まりでね。だから人に渡さなければならない訳だが……。ふむ」  男は一つ頷くと、ビラの束を亜子に当たり前のように手渡した。何気ない行動にごく自然に亜子も渡されたビラの束を受け取ってしまう。  「君にあげよう」    一件落着と言わんばかりに告げた男に、亜子は慌てた。大量のビラを束で貰ってもそもそも迷惑でしかない。    いらないと突き返そうとして、亜子がビラの束を差し出した瞬間、男が手にしていたステッキでビラの束をなぞる。するとビラから印字されていた面がすうっと浮かび上がり、水に流したかのように空気中へ消えていった。嘘のように消えて、亜子の手の中にはただの真っ白な紙の束が残る。    信じられず紙の束をパラパラめくるが、何度やってもそこにビラは一枚もない。あるのは至って普通の白い紙。    手品、よね?    頭ではわかっているが、種も仕掛けもわからない手品は時として魔法のように見えてしまう。  「サーカスの関係者以外に渡してしまえば、後はどうなろうともいいのだよ。ビラは人手に渡った時点でビラとしての役目を終える。役目を終えたビラはただの紙。君が捨てようとも破ろうとも、私が白紙にしようとも問題ない」  問題ないのは亜子にも理解できたが、狐につままれ状態である。  男は亜子に、つい今しがたまでビラだった白い紙を好きに使うといいと告げる。ビラでは使い道も限定的。白紙ならば束であっても困らないだろうと。    言われて亜子は素直に頷いた。  「それに……」  僅かに上体を屈めて、男は隣に座る亜子の顔を覗き込む。  視線を感じて亜子が横を見れば、間近にある男の顔。帽子の影になって見えないはずの目元。けれど亜子は確かに目が合ったように感じて、背筋がゾクリとした。  思わず顔を引きつらせる亜子に、口角を上げて、男はにぃと笑う。  「アコが来てくれるだけで私はいいのでね」  さらりと男に歯が浮く台詞を口にされて、亜子は眉根を寄せた。
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