黄昏の公園

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 そもそも亜子には、男にそんなに熱烈歓迎される覚えはない。大体、昨日会ったばかりの相手である。ついでいえば、かなり得体が知れない。昨日のことを思い出しても亜子自身、自分にそんな要素があるとは思っていない。警戒はすれども、気に入るようなことは何一つとしてした覚えはない。  男と会い、会話を重ねるごとに不可解さが増していく。  「望まぬ現実など夢に差し替えてしまえばいい。玉響(たまゆら)の夢を見るか、常しえの夢を見るかはアコ次第」  「えっ?」  男の手袋の感触が亜子の頬を掠める。髪の毛をひとすくい指にとって指先で撫でた。  時間でも止まったかのように、体が動かせなかった。不快感はなく、頭に靄がかかったようにぼうっとしてくる。男の指からこぼれ落ちた髪がさらさらと重力に従って流れていく。まるでスローモーションで再生しているかのように光景がゆっくりと流れて、それと同時に徐々に意識が遠のいていった。  どこかで警笛が鳴っている。煩いぐらいに鳴っているのに、うまく亜子の思考は回らない。すぐに音すら聞こえなくなって、亜子が意識を手放そうとした刹那、頭上から降って来た男の声に亜子ははっとした。  「明日を楽しみにしているよ、アコ。」  我に返れば、すでに男はベンチから立ち上がり、亜子を見下ろしている。  いまいち状況が把握できず、気のない返事を返す亜子に一瞬男が口角をあげて笑ったように見えた。確かめようにもすぐに男が亜子に背を向けたため、わからずじまい。男はそのまま軽く手を上げ、亜子に向かって手を振るとそのまま立ち去っていった。  再び一人になった亜子を静寂の公園が包み込む。  誰もいない公園。  公園の外灯が数回点滅し、明かりを灯し始めていく。  夕日が長い時間をかけてようやく沈み、わずかな余韻で空が赤く燃えている。それもすぐに夕日が沈んだ反対の方角から広がる濃い濃紺に飲み込まれていく。日が落ちれば、夜はあっという間にやってきた。    空が闇色一色になった頃、亜子の姿はもう公園にはなかった。
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