眞北

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 瑠璃子が結婚するということは、亜子にとって関係のない話ではなくなる。家族になると言うことはそういうことだった。たとえ亜子が将来的に家を出ようと考えていて物分りのいい娘のふりをしていても、瑠璃子が眞北と結婚すれば家族になり、繋がりができてしまう。流石に無視できなくなる。  しかし、亜子の心配は徒労に終わった。  実際、眞北は亜子の引いた合格ラインを軽く超えたのである。  初めて会った時の印象も悪くなく、人当たりがいい会う度に好きになれるタイプの人だった。今まで瑠璃子が付き合ってきたどの男の人よりも大人で、瑠璃子が結婚を考えたのも納得いった。面食いの瑠璃子にしては地味な普通の人を連れてきたと当初は思いもしたが、会話をすれば実に奥行きがあり、人を惹きつける魅力が眞北にはあった。  今では機会さえあれば瑠璃子と眞北の二人の時間を邪魔しない程度に、三人で食事をする回数も増え、お互いに打ち解けていっている。全ては順調だった。  今日も瑠璃子は眞北と会っているのだろう。  一旦は家に帰ったものの、瑠璃子からまた遅くなるとの留守電があった。冷蔵庫を見ても残り物はなく、今から材料を買い揃えて作るには時間的に遅い。お金はある。そこまでしてしいて作る必要性を感じなかった亜子はお弁当を買いに出ることにして、現在に至っている。  ようやく目的地に到着。  流石にお腹の虫が鳴くくらいにはお腹が減った亜子は、ぽっかぽか亭の看板に引き寄せられるように店の自動ドアの前に立った。ドアが左右に開いて、入れ違いに中から出てきた客の横をすり抜けて中に入ろうとする。が、顔を見て亜子は足を止めた。  明るめのグレーのスーツに色合わせのよいネクタイにワイシャツ。長身でがっちりした体型ではなくどちらかといえば細身。人の良さそうな糸目が顔の表情を穏やかに見せ、一見神経質そうに見える印象をうまく消してくれている。  相手も亜子を見て立ち止まったように、亜子自身もよく知る人物だった。亜子が声を掛けるより早く、相手の方が先に気づいていたのか声を掛けてくる。
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