眞北

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 「ありがとう、眞北さん。私なら大丈夫だから。」  少しでも安心するように自分でも上出来と思える笑顔を作り、眞北へ返す。すると眞北は穏やかな笑みを浮かべて、亜子の頭を優しく撫でた。  伝わってくる手の温もりに、亜子も心地よさを覚え、色々あった一日ではあったが少し報われた思いがした。  「亜子ちゃん、どんなことがあろうとも僕はね、亜子ちゃんと家族になれたらと思う。だから、僕は、」  眞北が何か言い掛けた瞬間、ザアァと突風が吹き抜ける。  騒めき立つ樹木。公園内の闇に染まる青々とした葉が風になびき、まだ若い葉が突風に耐え切れずさらわれてゆく。舞い上がった木の葉に混じり、どこからともなくバサバサと音を立てて紙が一枚飛んでくる。  タイミングよく掴み取る間もなく、ペチリと眞北の顔に貼りついた。貼りついたのはほんの束の間で、すぐに紙はハラハラとその重みで落ちていく。眞北のお弁当の真上に落ちる直前で、亜子がキャッチし、お弁当はことなきを得る。  何の紙だったのか亜子は手にした紙を改めて見て、唖然とした。  よれよれでしわくちゃ。薄汚れてはいるが、内容はあの大量にもらった迷惑行為でしかなかったビラと同じもの。紛れもなくあのサーカスのビラだった。  一体、一日に何枚このビラを手にすれば気が済むのだろうかと、いい加減呆れた亜子は大きなため息を吐いた。と、同時に思いに任せてこのビラを力の限り丸めて、ポイ捨てしたい気分に駆られた。  けれど未遂に終わる。  「あ、今、街に来ているって噂のサーカスのだね」  至極当然、いたって普通の反応を見せる眞北に思い止まったからだった。  何も知らない眞北の前で突然投げ捨てようものなら、明らかに変に思われるのは必至。隣で亜子の手にしたビラを横から覗き込み、眞北が興味を示しているのなら尚更だった。  折角、眞北が興味を持っているのならと亜子は考え直し、この場でビラを捨てるのは諦めて、話ネタにすることにした。なにより眞北が自分のことを心配している以上、これ以上いらぬ心配を増やす気にはなれなかった。
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