眞北

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 「そうそう。明日から公演で私も明日それに友達と行く予定。だから楽しみなの」  心にもないことを言って、待ち遠しい素振りを亜子は見せた。  前に小百合や雛子が亜子をサーカスに行こうと誘った際、興奮気味にサーカスについてのロマンらしきことを語ってくれたのをそのまま真似して眞北に話すと、眞北も楽しそうに聞いてくれた。話し終わる頃には亜子の思惑通り、うまい具合に眞北は勘違いしてくれた。『サーカスが本当に楽しみなんだね』と。  実際に楽しみにしているのは小百合や雛子であって、亜子ではない。正直、面倒だと今でも思っている。が、それにすかさず亜子は頷いた。  「亜子ちゃんが元気そうでよかった」  「そんな心配することじゃ」  「いや、心配するよ」  予想外に眞北の口調が真剣過ぎるところがあって、亜子の方が戸惑ってしまう。そんなに重い話でもないように感じたが、きっと眞北が心配性なのだろうと亜子は内心苦笑する。  不意に眞北の指が頬に触れて、亜子は顔を上げた。どうしたのかと思い、眞北の方を向くと髪に触れていたらしく、どこか悲しげな表情をする眞北と目が合った。  眞北はただただ困ったように笑う。  「ショートカットにしちゃったんだよね、髪」  「夏だし、ちょうどいいかなって。似合わない?」  「いや、似合っているよ。ただ、背中まであったから勿体なかったかなと少し思って。綺麗だったから。ごめんね、亜子ちゃん」  眞北の言葉に、一瞬、頬がチリリと痛む錯覚を覚えた。熱に似た痛さに亜子は頬に指を添えたが何もない。  「謝らなくていいよ、眞北さん。眞北さんはショートよりロングが好きだったんでしょ」  亜子はおかしくて笑うが、相変わらず眞北の表情は冴えなかった。亜子としては暗い話をしているつもりはないが、合わせて笑ってくれる眞北の笑顔はどこかぎこちなく複雑なものだった。  「眞北さんは行かないの?」  「サーカス?」  「そう。サーカス」  急に亜子に尋ねられ、眞北は顎の下に手をついて、しばし考える。
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