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 まただ。  そう思っても仕方ないくらいいつも自分だけが違う意味で特別扱い。  バーコード禿げの脂ぎった中年親父と嫌な要素三拍子揃った容姿の担任で、亜子からしてみれば性格も誉められたものではなかった。  相性は最悪。というより目を付けられて、ことある毎に陰湿な嫌がらせを受けていた。  担任曰わく、教育的指導というものらしい。  まったくうんざりしていた。  ここまでくるといい加減、亜子も嫌気がさしていた。  思い出しただけでもイライラする出来事だった。  おもむろに足を止めて、日差しを遮るように手をかざし、空を見上げる。  空はこんなに青く綺麗だというのに、なぜこんなにも自分は嫌なことばかりなのだろうと愚痴の一つも溢したくなる。  視線を空から戻し、止めていた歩みを進めようとした刹那、ふわりと風か吹き抜けて、不意に亜子の元へビラが舞い込んでくる。  手に取ればサーカスのビラだった。  今、街で噂になっているサーカス。亜子もそのくらいは知っていた。  街外れの広場に大きなテントを張り、サーカスの衣装にふんした見慣れぬ顔の者達が街でビラをまいて派手に宣伝していれば誰でも目を引く。けれど、それでも亜子にとってはどこかしら他人ごとで、自分に関わりの無いことと処理していた。  そもそもサーカスが来たからといって、はしゃぐような年ではないし、そういうキャラでもないと自負している。  ところが今日の昼休み、友人の二人がサーカスの話を持ち出したせいでスルーする訳にもいかなくなった。  中学から一緒の小百合(さゆり)と雛子(ひなこ)の二人。無事に同じ高校に受かり、三人仲良く同じクラスとはいかなかったものの、より良い友人関係を構築し続けている。  そんな二人がサーカスへ行こうと言い出したのである。言い出しっぺは何にでも興味を示す小百合だろう。見かけは清楚なお嬢様風ではあるが、活動的で好奇心旺盛。おっとり大人しめの雛子は小百合に引きずられただろうことは想像するに容易だった。  「ねえ、亜子、行こう!」  目をキラキラさせた小百合が亜子に詰め寄った。
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