サーカスの開演

2/13
前へ
/114ページ
次へ
 十代前半の三つ子の女の子が華やかな舞台衣装に身を包んで一基のアコーディオンとバイオリン、自らの声音で奏でていた。民族音楽とも宗教音楽ともわからない不可思議な旋律がBGMの役割を果たして、曲を聴くものの心をサーカスへと誘う。  表情が乏しく、どちらかといえば無表情な少女たちであったが、反ってそれがまた幻想的とも思える雰囲気を際立たせていた。その傍らでピエロに扮した道化師が戯けて、手にした風船を次々と動物に作り替えては子供たちに配っている。その他にも色とりどりの衣装を身にまとったサーカスの団員達が所々で軽い芸を披露して来場客を持て成していた。  一方で目に飛び込んできたのは長蛇の列。列の先頭がどこから伸びているのか辿ってみればなんのことはなかった。クローズドの看板をぶら下げ、亜子にチケットを売ることを拒否したあのチケット売り場だった。  チケット売り場には当日券を求める客が長蛇の列を作り、サーカスの団員と思しき要員が最後尾のプラカードを持って人員の誘導整理を上手い具合に行っていた。  滅多に来ないサーカスだけに集客力は抜群である。  つい先日、前売り券を買いに嫌々足を運んだ亜子も、この光景を見ると幾分報われた気がする。  チケット売り場とは対称的にサーカステントへの入口は特に詰まる様子もなく、客はどんどん中へ入っていた。  特に小百合や雛子と外で待ち合わせているわけでもなかった亜子は、早速中へ入ることにした。チケット売り場の列を尻目に、亜子は入口に向かった。  入場口では入口に立った男がチケットの半券を手際よく切り取り、中へ人を流していく。  皆、手にしているのは茶色のチケット。  シルクハットの男曰く、亜子に売られるのが嫌で姿を消したという、あのチケットだった。  やはり何の変哲もないチケットに思えたが、亜子は不思議な光景を目にする。  入場口の係りの男がチケットを客から受け取り半券を切りとると、男が切り取った半券が光の粒になって消えていくのである。客の反応は驚いたり感嘆したり見入ったりと様々ではあるが、余興の一つと思っているためか、その不思議な光景に疑問を持つ者はおらず、すぐに客はテントの中へ入っていく。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加