サーカスの開演

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 年は亜子よりもやや年上。身長は亜子よりは高いが、同世代の男の子と比べたらやや平均より低め。くりっとした金色を思わせるアンバーの瞳。短めに切り揃えられた赤毛が印象的で、赤毛に栄えるよう色を合わせた舞台衣装がとても似合っていた。動き易さ重視の、装飾は最低限。むしろどこかの民族衣装を思わせる服装に、この人物の快活さが伺えた。  「ほら、仕事サボってないでちゃきちゃき働く」  どうやら入場口が詰まってきたのを見兼ねて様子を見に来た、といったところだろう。  赤毛の男の子が現れたことで、立場が下なのか係りの男がおどおどし始める。  けれど、係りの男の様子に気をとめる素振りはなく、すぐに赤毛の男の子も係りの男が手にした赤いチケットに気づく。係りの男の手からひょいと抜き取ってしまうと、赤いチケットを同じように珍しいものでも見るかのように凝視した。  ここまでくると貰った前売り券が本物かどうか亜子もあやしくなり始める。本物と疑わなかっただけに、偽物であるならばかなり質が悪い。今更だが、ただで貰った挙句に貰った相手が相手である。一概に偽物ではないと否定出来ないのが痛いところである。  「何これ、何これ、何これ! 本日三枚目の赤いチケット登場。なにチケット三枚も売り歩いて来ちゃてるわけ、あの人?! この前だってチラシ全部配って帰って来ちゃうし。いつもなら迎えに行くまで絶対帰ってこないのに、マジでどーなってんの!」  「えーと…あの」  「あ、ごめん、ごめん」  状況を掴めず戸惑う亜子に、赤毛の男の子は顔を上げ、亜子を見る。愛嬌のいい赤毛の男の子。  係りの男より話易そうなのをみて、亜子は腹を括って尋ねた。  「もしかしてチケット偽物?」  おずおずと尋ねた亜子に赤毛の男の子は目をぱちくりさせると、左手を振ってあっさり否定した。  「チケットなら正真正銘の本物だから安心して」  言われて胸を撫で下ろす亜子に、赤毛の男の子は苦笑混じりに続けた。
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