サーカスの開演

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 諦めてうなだれる亜子をよそに、ルディは係りの男に指示を出していた。  最後に 「彼女は俺が案内するから、後は宜しく」 と係の男に告げて、亜子抜きで勝手に話が進んでいく。  呆れた視線をルディに送るが、ルディはどこ吹く風で気に留める様子もない。  「じゃ、そういう事だから俺が案内してあげるよ。……と、その前に」  ルディは手にしていた赤いチケットを切り離す。すると亜子の赤いチケットの半券も赤い光の粒となって消えていく。  これも手品。  わかっていてもタネがわからない亜子には何回チケットが光になる瞬間を見ても幻想的に見えた。サーカスが始まる前の余興。たったこれだけでも客は魅了され、心を奪われる。  「ようこそ、アコ。いい夢が見られるといいね」  ルディは目を細めて、クスリと口の端を上げて笑う。一瞬の笑い。  赤い光に視線を落とす亜子が気付くことはなかった。  ルディに手を引かれてサーカスのテントの入り口を潜ると、すぐに開けた場所に出た。  円形舞台に続くホール。中は仄暗く、置かれた照明は絶妙の間隔で設置され、周囲を真っ暗にならない程度に照らしている。円形舞台に沿う形なせいかこの空間も円弧を描き湾曲している。客席へと続く入り口が更に奥に三つ、左側、中央、右側とぱっくり口を開けていた。入り口の上にはアルファベットが印されて、中の座席の位置に一番近い入り口がどれかを知らせている。  まだ開演には少し早くホールに人が中は中で溢れかえっている。それもその筈で、中でも外と同じようにアイスクリームや綿菓子、ポップコーンなどお菓子が売ってあり、開演するまでの時間、退屈を凌ぐには持って来いな場所なのである。  きっとルディと手を繋いでなければ、はぐれてもおかしくなかっただろう。  未だにルディは亜子の手を放さず、亜子の手を引いてズンズン進んでいくので、仕方なしに亜子も付いていく。  薄暗い空間の中、ルディの赤毛は思いの外目立っていた。きっとこの中ではぐれたとしても、すぐに見つかるのではないかと思えるほどにルディの赤毛は目印になっている。歩く度に短い髪がふわりと揺れて、僅かに流れる髪が綺麗だった。
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