チケット

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 つい先日まで何もなかった広場に突如張られた見上げるほどに大きなサーカスのテント。カラフルな彩りのテントは実に存在感があった。入り口に《アガレスサーカス》の文字。開演は明後日であるためか、日暮れが近いためか、閑散としており、亜子はどこか不気味に感じた。  長居は無用と亜子は辺りを見回し、すぐさまチケット売り場を探す。  サーカスの入り口、少し左にずれた所にチケット売り場はあった。が、見るからに誰もいない。  チラシには前売り券好評発売中と書いておきながら、チケット売り場に掛かるクローズドの文字はなんなのだろうか。チケットを売るつもりがないのだろうか?  亜子は携帯を取り出して時刻を確認する。チラシに書かれている開店時間はやはりまだ過ぎてはいなかった。なのにクローズド。  「こんなとこまで足を運んで収穫なし。いや、ありえないから」  たとえ外に人影がなくとも中には誰かいるだろうと踏んだ亜子はサーカスのテントへの入り口を探し出した。  一番に目に付く正面入り口はあるにがあるが、きれいに閉められて問答無用で人の入場を拒んでいた。  入り口が一つってことはないでしょ。  亜子はとりあえずテントを一周してみることにした。  薄暗い中、テントの外周を回る。響くのは自分の地面を踏みしめる足音だけ。時折、出てきた風が周りの木々を揺らし、ザーッと音を立てた。亜子の頬を風が撫で、ようやく微かな涼しさを覚える。  ちょうど半周したところで、テントに切れ間を発見した。  正面入り口とは正反対の場所に位置するあたり、関係者以外立ち入り禁止の立て札があってもおかしくはない入り口だろう。様子を伺えば、中からは微かに灯りが漏れている。亜子は初めの一歩を踏み出すのに一瞬躊躇する。  ここまで来て、入るか入らないかで迷っても何も始まらないわね。  亜子はすぐに思い直して、灯りに吸い寄せられるように、僅かに開かれた入り口へ入って行ったのだった。
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