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「俊藤さん」の車は10分ほどで、教室の「玄関」前に、停車しました。
「よく、覚えてくれてたわね」
ぼくを迎えてくれた、俊藤さんの声も、こころなしか、弾んでいました。
タクシー会社の、制服でしょう。
白い綿のシャツに、えび茶色のベストを合わせ、薄くお化粧をした「俊藤さん」は、病院にはいっていたときよりも、「2つも3つ」も若返ったように、見えました。
ぼくが住所を告げると・・・
「別処沼公園の横の道を抜けたあたりね」
と、ちょっと「声」を落としました。
「別処沼公園」というのは、「ぼくの住んでいる市」の中でも有名な公園です。
灌漑用の水の「ため池」だった周辺に、市が「桜や藤棚」などを植えて、さらに野球場やプールなどを設営、「別処沼公園」として、整備した。
ということです。
ふと、俊藤さんが、
「おとなしくしててよ」
ちょっと「奇妙なこと」を口にしたので、ぼくは、
「え?」
と、訊き返しました。
ぼくに「おとなしくしててよ」と言ったようにも、思えなかったのです・・・
では、だれに?
「ごめん。なんでもないわ」
俊藤さんは、明るく言いましたが、ぼくの「心」には、ちょっと「ひっかかる」ものが生じました。
・・・そういえば。
俊藤さんの「息子」さんが傷害事件を起こしたのが、「水晶沼公園」だったな。
と、病院で「聞いた話」を思い出しました。
「おとなしくしていてよ」
は、それにしても「ヘン」です。
ひとり言?
息子さんが「少年刑務所」から出てきて、「また暴れないように」とでも、祈ったのかなあ?
そうとも、考えましたが。
釈然(しゃくぜん)とは、しませんでした。
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