第四章  別処沼公園

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「俊藤さん」の車は10分ほどで、教室の「玄関」前に、停車しました。 「よく、覚えてくれてたわね」  ぼくを迎えてくれた、俊藤さんの声も、こころなしか、弾んでいました。    タクシー会社の、制服でしょう。  白い綿のシャツに、えび茶色のベストを合わせ、薄くお化粧をした「俊藤さん」は、病院にはいっていたときよりも、「2つも3つ」も若返ったように、見えました。    ぼくが住所を告げると・・・ 「別処沼公園の横の道を抜けたあたりね」  と、ちょっと「声」を落としました。   「別処沼公園」というのは、「ぼくの住んでいる市」の中でも有名な公園です。         灌漑用の水の「ため池」だった周辺に、市が「桜や藤棚」などを植えて、さらに野球場やプールなどを設営、「別処沼公園」として、整備した。  ということです。    ふと、俊藤さんが、 「おとなしくしててよ」  ちょっと「奇妙なこと」を口にしたので、ぼくは、 「え?」  と、訊き返しました。  ぼくに「おとなしくしててよ」と言ったようにも、思えなかったのです・・・    では、だれに? 「ごめん。なんでもないわ」  俊藤さんは、明るく言いましたが、ぼくの「心」には、ちょっと「ひっかかる」ものが生じました。    ・・・そういえば。  俊藤さんの「息子」さんが傷害事件を起こしたのが、「水晶沼公園」だったな。  と、病院で「聞いた話」を思い出しました。 「おとなしくしていてよ」  は、それにしても「ヘン」です。  ひとり言?    息子さんが「少年刑務所」から出てきて、「また暴れないように」とでも、祈ったのかなあ?  そうとも、考えましたが。  釈然(しゃくぜん)とは、しませんでした。
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