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俊藤さんが、声をひそめて、話し始めました。
「うちはね江戸時代に『別処沼』を造った、地主の子孫なのよ。
あの沼を造るので、たくさん犠牲者が出たそうよ。沼をつくるために働くのは、処刑場とは『別』の場所で処刑されるのと、同じだ。という意味で、誰ともなく、言い始めた名前だっていうことよ。
沼の底には『怨霊』が、棲みついているのよ。
あたしの『血筋』は、沼の『死神』に、呪われているの」
そう、暗い声で言いました。
「息子が『傷害』の罪を犯したのも、あの沼の近く、あたしが『覚せい剤』に初めて手を出したのも、あそこよ。あの辺りには『売人』が出没するのよ」
唐突に、俊藤さんは、シャツのボタンはずし、二の腕までたくしあげました。
そこには・・・
「人の顔」がありました。
いえ。
・・・そう「見えた」のです。
ぼくは、すぐにそれが、
おそらく「覚せい剤」を打ち続けた「注射」の痕(あと)だな、と察しました・・・
でも!
急に・・・
その「人の顔」が「かっ」と目を見開いたのです。
それから、真赤な口を開き、
「ひぃひぃひぃ」
と、笑いました。
その声も、とても俊藤さんの「もの」とは思えませんでした。
その次の瞬間、俊藤さんは、タクシーの客側ドアを開けました。
「ごめん!逃げて」
そう言いました。
ぼくは無言で、タクシーを降りました。
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