第五章  沼に棲むモノ

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 俊藤さんが、声をひそめて、話し始めました。 「うちはね江戸時代に『別処沼』を造った、地主の子孫なのよ。  あの沼を造るので、たくさん犠牲者が出たそうよ。沼をつくるために働くのは、処刑場とは『別』の場所で処刑されるのと、同じだ。という意味で、誰ともなく、言い始めた名前だっていうことよ。  沼の底には『怨霊』が、棲みついているのよ。  あたしの『血筋』は、沼の『死神』に、呪われているの」    そう、暗い声で言いました。 「息子が『傷害』の罪を犯したのも、あの沼の近く、あたしが『覚せい剤』に初めて手を出したのも、あそこよ。あの辺りには『売人』が出没するのよ」    唐突に、俊藤さんは、シャツのボタンはずし、二の腕までたくしあげました。  そこには・・・    「人の顔」がありました。    いえ。  ・・・そう「見えた」のです。  ぼくは、すぐにそれが、  おそらく「覚せい剤」を打ち続けた「注射」の痕(あと)だな、と察しました・・・  でも!  急に・・・    その「人の顔」が「かっ」と目を見開いたのです。      それから、真赤な口を開き、 「ひぃひぃひぃ」  と、笑いました。  その声も、とても俊藤さんの「もの」とは思えませんでした。      その次の瞬間、俊藤さんは、タクシーの客側ドアを開けました。 「ごめん!逃げて」  そう言いました。      ぼくは無言で、タクシーを降りました。
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