偽りの自分

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気がつくと、美夕と悪魔はあの事故が起こった交差点にいた。 辺りは暗く、人は見当たらない。 時々、車が数台通るだけ。 街灯の光が物寂しい。 「…これからどうしよう?」 「……とりあえず、家でも探したらどうだ?」 悪魔の提案は、美夕には理解出来ないものだった。 「何で?私には家が――」 「お前はもう『織田美夕』ではない。『織田美夕』には戻れない。 だから、家もない。名前もない」 『織田美夕』ではない。 『織田美夕』には戻れない。 言葉が胸に突き刺さる。 「……じゃあ、まずは家をどうにかしなきゃね。どうしよう……」 「お前は馬鹿か?」 悪魔が嘲るように言った。 「何のために俺がいると思っているんだ?」 「え?」 首を傾げる美夕を見て、悪魔は溜め息をついた。 「…お前、馬鹿だな。 俺が家を探してくる」 悪魔は駆け出した。 美夕もその後についていこうとしたが、悪魔に睨まれた。 「お前はここにいろ」 悪魔は一言冷たくそう言い放ち、どこかに行ってしまった。 仕方なく美夕は悪魔の言われた通りにここで待っていることにした。 出来ればこの交差点にいたくはなかったのだが。 この交差点にいたら、憎しみが心を支配して、可笑しくなりそうだった。
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