偽りの自分

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歩みを止めた美夕と悪魔の目の前には、割と立派な一戸建てが建っている。 「ここが、新しい家……?」 「…不満か?」 「嬉しいっ!ずっと一戸建てに憧れてたの!!」 美夕は満面の笑みで悪魔の手を握った。 『織田美夕』の家は、少し廃れたアパートだったから、こんな立派な一戸建てに住めるなんて、夢みたい……! 悪魔は美夕の行動に驚き、されるがままになる。 悪魔の驚いた顔は珍しい。 初めて悪魔が普通の男の子に見えた瞬間だった。 「ありがと! えっと…名前は?」 美夕は我ながら今更な質問だと思った。 悪魔は目を落とした。 「……名前は、ない」 「ないの?」 「悪魔は契約主に名前を付けてもらうのがしきたりだ。だから、お前が付けろ」 そう言われて、美夕は困ってしまった。 当然のことながら、人に名前を付けたことなどない。 どんな名前を付けたらいいかわからなかった。
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