偽りの自分

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その時、美夕の頭の中にある場所が浮かんだ。 悪魔と初めて出会った場所――"この世とあの世を繋ぐ道"。 この世はプラス。 あの世はマイナス。 そう考えると、あの道はちょうど真ん中、零(ゼロ)に当たる――。 「……決めた!あなたの名前は、今日から、零(レイ)!!」 私に希望を与えてくれたのは、悪魔。 そして、その悪魔と出会ったのは、"この世とあの世を繋ぐ道"。 すなわち、零(ゼロ)の場所。 だから、美夕は零と名付けた。 「よろしくね、零!」 「あぁ。 …お前の名前は?」 悪魔――零の質問の意味がわからなかった。 零は美夕の名前を知っているはずなのだ。 契約する時に名乗ったのだから。 零は美夕の心を見透かしたように、淡々と告げる。 「さっきも言っただろう?お前はもう『織田美夕』じゃない。 『織田美夕』は、死んだ。殺された。この世にはもう存在しない。 今のお前は名もないただの女だ」 美夕は、いや美夕だった少女は、言葉を失った。 現実はあまりに残酷で。 幼気な少女の心を傷付けるには、十分過ぎる程の威力を持っていた。 しばらくして、少女は口を開いた。 「私の、名前は――」
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