第一章 戦場の記憶

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 ------僕は人込みをかき分けて走る、途中でいかにもガラの悪そうな男にぶつかろうともだ、後ろから怒鳴り声が聞こえてくる。  無視。  僕はやっとの思いであるひとつの建物に着いた、多分だが、それは病院だった、とても、とても小さな----  医療技術も今に比べれば考えられないくらいに未発達だったと思う、だが、その病院はその時、とても収容しきれないほどの患者が担ぎ込まれていた。  それらのほとんどは、皆同じような症状が理由で応急処置を受けていた。  ----重度の火傷、らしい。  半分恐慌状態に陥っている院内をどう走ったかなんて詳しいことはわからない。 「母さん!!」 無我夢中になってドアを開けた、そこには…  誰が横たわっているのかわからなかった。  ----顔が、無くなっていたから。  近くの医師を呼び止めることはできなかった、この上なく忙しいのは医者である。  どこからか怒声にも近い声が耳に入ってきた。 「生きている患者の生命維持を最優先にしろ!」  生きている患者…?  今現在、自分の目の前に横たわっているこの人には誰も目をくれようとしない。これは何を意味するのか?  それを考える前に 「……!!」  コーエンは見た。見てしまった。  唯一火傷の跡がない、その足に、  母の靴が履かれていたのを。
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