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「----コーエン?どうしたの?」
その一言で自分は現実に引き戻された、例えるなら初めてモドリ玉を使ったときのような感覚である。
あまりの衝撃に、目の焦点が定まらない。
「僕の……」
「え?」
不安のさなか、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕の家族は…?」
「家族は、って聞かれても……」
「コーエン、お主どうしたのだ?」
無意識でのことだったが、胸まで掛かっている布団を内側から思い切り握りしめていた。
「……思い出せないんだ」
頭を左右に振って答える。
二人は驚き、そして次にまるで苦虫----にが虫ではなく----を噛み潰したときのような険しい表情に変わった。
それを見てとれた自分は彼らに何か心当たりがあるのかと問おうとした、藁にもすがる思いだった。
だが、その時、
「面会はここまでです」
看護師の声が耳に届いた、ビアンカとリュウはそれに従い病室をあとにしようとする。
----待ってくれ!
そう言おうとしたのだが遅かった、布団から出ていた左腕にチクッとした痛みが走る。
「っ…!?」
----鎮静剤を打たれたように感じられた。
それは多分間違いではなかった。
意識が遠のく。
その様子をビアンカは見ていた、哀れみの込められた瞳で、哀れみといっても本気で自分のことをかわいそうだと思っている、そんな感じの。
瞼が閉じる、すべての音が遠ざかっていく…
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