君との距離

16/20
4021人が本棚に入れています
本棚に追加
/506ページ
  私はそっと瞼を閉じ、開いて、昂希君の横顔を見る。 「俺の両親、俺がガキの頃から共働きで。 唯一、お袋は親父より休みが多かったから、お袋と過ごす時間は長かったけど。 3人で過ごす時間は、いつも短くて」 昂希君は下に向けてた顔を上げ、桜の木を真っ直ぐに見つめる。 「祖母は気付いてたんだろーな。 当時、俺自身でも気付かなかった、寂しいって感情に。 俺が小学生の頃、お袋と祖母んとこ遊びに来た時、ただ黙って、俺の手引きながら連れてきてくれて」 私に過去を語ってくれる彼の横顔は、おばあさんとの思い出を懐かしむような顔で。 「2人並んで、何も語らず座ってたり。 雪が積もれば、雪だるま作ったり。 いつしか、一年間の中で一番の楽しみになってた。 祖母とここに来んのが」 ああ、彼は自分に対しても昔話を語りかけているんじゃないだろうか、と。 不思議と私はそう思った。 「ここ、桜が綺麗なのもあるけど。 祖母との思い出が沢山あるから、この地上で一番、好きな場所なんだ。 だから……」 私の方を向いて、微笑む昂希君。 「だから、夏南を連れてきたいと思った。 連れてきたのも、夏南が初めて」  
/506ページ

最初のコメントを投稿しよう!