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私はそっと瞼を閉じ、開いて、昂希君の横顔を見る。
「俺の両親、俺がガキの頃から共働きで。
唯一、お袋は親父より休みが多かったから、お袋と過ごす時間は長かったけど。
3人で過ごす時間は、いつも短くて」
昂希君は下に向けてた顔を上げ、桜の木を真っ直ぐに見つめる。
「祖母は気付いてたんだろーな。
当時、俺自身でも気付かなかった、寂しいって感情に。
俺が小学生の頃、お袋と祖母んとこ遊びに来た時、ただ黙って、俺の手引きながら連れてきてくれて」
私に過去を語ってくれる彼の横顔は、おばあさんとの思い出を懐かしむような顔で。
「2人並んで、何も語らず座ってたり。
雪が積もれば、雪だるま作ったり。
いつしか、一年間の中で一番の楽しみになってた。
祖母とここに来んのが」
ああ、彼は自分に対しても昔話を語りかけているんじゃないだろうか、と。
不思議と私はそう思った。
「ここ、桜が綺麗なのもあるけど。
祖母との思い出が沢山あるから、この地上で一番、好きな場所なんだ。
だから……」
私の方を向いて、微笑む昂希君。
「だから、夏南を連れてきたいと思った。
連れてきたのも、夏南が初めて」
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