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そうして、その夜、ふたりで作ったメシは…。
喰えたモンどころか、喰えそうなモンですらなかった…。
どうやら、お互い料理ってのには、とことん向いてねぇらしい。
それから腹を空かせたオレ達は、気を紛らわせる為、色んな話をした。
といっても、オレはほとんどアイツの話を聞いていただけ。
オレはもう十分だったから。
だから、オレは聞いていた。
物心つく前に亡くなっちまった、もう顔も思い出せないアイツの父親の話。
父親の膝の上で、キッチンでパンを焼いてる母親の後姿を、眺めていた時の思い出。
その時の、父親の幸せそうな口元だけは、不思議とハッキリ覚えている事。
そして、アイツの母親の話。
どうも、コイツの話を聞いた限りじゃ、病弱ながらも、かなり気の強いひとだったらしい。
「ぷっ!」
「へ?どした、師匠?」
「いや、いいから続けろよ」
「なんだよ気持ちわりぃな…。
えっとな…?それから母さんはさ…」
このひとが育てたんなら、コイツが『弱さを盾にしない』なんて叫んだのも頷ける。
そんなひとだったんだ。
それとパンを焼くのが、上手いひとだったらしい。
だから、コイツは将来はパン屋になりたかったそうだ。
コイツの焼いたパンで、あの時の父親みたいに幸せそうに、誰かが笑ってくれる。
そんなパン屋になりたかったって。
けど、それはしばらくお預けだって。
そう、少しだけ寂しそうに呟いて、話し疲れて寝ちまった。
安心しきったような間抜けツラで、寝息を立てるコイツをベッドに運び…。
「愛されてたんだな、お前は…」
オレもそのまま一緒のベッドで眠りについた…。
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