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「ごほっ…げほっ…。
あ…んたは一生懸命やってくれたんだろ…。
だから…間に合わなかったって、そんなに自分を責めてくれてんだろ…」
むせかえりながら、それでもアイツは言葉を続ける。
「だからこそ…あんたは悪くないのに…。
一生懸命頑張ってくれたのに…。
それでも全部自分のせいにしようとしてくれてんだろ…」
その言葉をどこか遠くに聞きながら、オレの脳裏に今までの記憶がどんどん溢れてくる。
あたしの髪がとても綺麗だと、いつも撫でてくれた父のごつくて優しい手の感触。
お転婆なのがたまにキズだと、いつも困ったように叱ってくれた母のあの優しい笑顔。
いつからだったろう…。
あたしがそんな両親の瞳の奥に、ほんの小さな恐怖の色を見つけてしまったのは…。
6才の頃、魔術研究院に勤める父の研究を、遊んで貰う時間欲しさに、あたしが勝手に完成させた時からだったろうか。
8才の頃、一緒に買い物に出かけた母に絡んできたゴロツキを、最上級魔術で病院送りにした時からだったろうか。
本当に…いつからだったろう…。
あたしと両親が、目を合わせることすらしなくなったのは…。
あたしが『オレ』になって、こんな言葉遣いになっていったのは…。
オレが少しでも髪が伸びると、すぐに切っちまうようになったのは…。
あれは16の誕生日だった。
そんな事をしても、もうあの頃には戻れないと悟ったオレが、家を出たのは…。
でも、両親の目に耐えれず逃げたした先も、オレは違うと無言で訴えて来る『あの視線』ばかりだった。
オレだって、誰かを助けれなかったら痛いのに…。
あたしには、残された人たちの行き場のない悲しみや、怒りは背負いきれないのに…。
でも、どこへ行ってもソレを許してくれるヤツは居なかった。
そう、コイツ以外は…。
「だけど、もういいんだって!
母さんの事は、あんたが背負うことじゃないんだからさ!」
泣きたいクセに、痛いクセに、逃げたしたいクセに、それでも精一杯強がってみせる『弱い』コイツ以外には居なかった。
結局、救われたのは『オレ』と『あたし』
そして、あたしを救った本当に『強い』ヤツは…。
「っていうか、母さんの思い出は全部おれの大事なモンなんだ!
あんたなんかにゃ絶対に渡さないね~っ!んべ~~っ!!!」
そんな事には気付きもせずに、小憎らしいツラで舌を出していやがる。
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