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そして、肝心のアイツは…。
「…………」
しばらく迷うように考え込んだ後…。
「師匠、腹減った」
そう、事も無げに口にした。
…『師匠』…か。
…ま、悪くねぇか。
なんとなく、そんな気がした
なにを教えるワケでもねぇ、なにを教わるワケでもねぇ、そんな適当で、あやふやな関係。
オレとコイツはそれでいい。
それぐらいが、丁度いい。
そう、思ったんだ。
「そういや、オレもだな。
おい、バカ弟子、メシだ」
「はぁっ!?
弟子の面倒みるのが師匠ってモンだろっ!?
ほ~ら、かわいい愛弟子がお腹空かせてますよ~っ?」
どうやら、オレの弟子はなかなかに、あつかましいヤツらしい。
自分からメシの話題を振っておいて、本当に勝手なヤツだ。
「バカだな、お前。
師の世話をすんのが、弟子ってモンだろ?」
「いいだろう!わかった!
あんたと言い争ってもメシにはありつけないのは、よぉくわかった!
そこでだ!百歩譲って…。
今日のところは、一緒に用意するってのはどうよ?」
「……ま、いいだろ。
んじゃ、行くぞ、バカ弟子」
そして、なかなかに頭と口先の回転だけは早いらしい。
こうして、アイツの家に向かう道すがら、なんとなく見上げた夜空は薄い雲に覆われて、星はほとんど見えなかった。
ハンパに欠けちまった月が雲の隙間から、半分くらいそのツラを覗かせているだけ。
満月でもなく、半月でも三日月でもない中途半端に欠けた月。
なんとなく、欠けてもしっかりと輝いてるその月が、コイツに似てる。
そう、『オレ』も『あたし』も思った。
多分、ほとんどのヤツにとっては、なんの変哲もない普通の夜空。
こんなごくごく普通の夜空の下…。
あたしはコイツに救ってもらったんだ。
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