プロローグ

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プロローグ

 何万という民の暮らす大陸。  そこは幾つかの国に別れてはいたが、総じて『地の国』と呼ばれていた。  広大な大地が横たわる地の国、そこには野生の動植物は勿論、グドンという様々な動物の特徴を持った二足歩行のモノ達や、モンスターもいた。  モンスターとは、グリモアの誓いに背き死んだ冒険者の成れの果てである。  そして、そういった敵から民を護ることと、そのために己を高める努力を怠らないことをグリモアに誓った『冒険者』達が民から敬意をもって頼りにされていた。  天啓を受けて冒険者になった青年がいた。  彼は地の国の遥か上空、天上の国『白き庭』に住まうエンジェル族であった。  普通は楽園のような暮らしやすい環境の『白き庭』から出ることなく、平和に生きる種族である。  確かに背に一対の小さな白い羽を持っていたが空を飛ぶことは出来ない。ただ、ぼうっとして意識を空虚にすると羽が光って体重が軽くなり、うっかりすると風に飛ばされてしまう。  エンジェルといっても厳密には『天使』ではないのだ。  彼らの中で、様々なきっかけや動機で冒険者になると決めた者は地の国に降りることが出来る。  見た目は精神的に成熟したかどうかで成長する、不老種族のエンジェルは、多くが何十年も生きていながら無垢な子供の姿。  降り立った青年は、エンジェル特有の線の細さと幼さとを有していたが何処か大人びてもいた。  外見年齢は19歳くらいだろうか、エンジェルとしてはこれ以上見た目は年を取らない。つまりは精神的に成熟しており、見た目以上に生きている可能性があるということだ。  ルビーのような赤い瞳、白い肌、ふわふわの亜麻色の髪は襟足のみが少し長い。 「初めまして、アクラシエル・エオスといいます」  青年は名乗り、身を寄せることになった家に暮らす先輩冒険者に挨拶を済ませ、冒険者が集う酒場に向かった。  その姿は、瞳の色に合わせた紅玉や細かな装飾の施された白銀の鎧に身を包んだ重騎士。  彼はどちらかといえば術士向きな能力のエンジェルでありながら、その身を盾にして仲間や民を護り戦う重騎士となることを選んだのだ。  それはまさに天啓、ある運命的な導きによるものであった。
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