踏み出した一歩

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やたらフレンドリーな店長の伝言板に、余計不安しか感じられない。 「…………ま、いいか」 思う所は多々あるが、採用というのだから有り難く受けておこう。 これで晴れて、立派な労働者である。 用意してあるという制服に袖を通す。 赤と青の縞模様。 着替えただけだが中々気合いが入る。 ――――……一時間後。 誰も来ない。 店長も、店長代理も、他の店員も誰も。 やはりあの扉――記憶抹消――誰もいない。どうしよう。 仕事は何も分からないが、此処でこうしてじっとしているのも不安ばかり募るので、掃除してみる事にした。 何も分からない新人でありながら率先して掃除をした俺を見て、 『キャー素敵!(美少女)』 『なんて頼りになるのかしら(年上美人)』 なんて事になりかねない。 何故褒めているのが皆女の子なのかというと、それは俺が男の子だから。 それ以上の説明はいるまい。 想像したら俄然やる気が出てきた。 売り場へと足を踏み入れる。 「…………」 それは何とも不思議な感覚だった。 入口近くの雑誌コーナー。店の一番奥にある飲料水の棚。レジ近くのおにぎり、弁当の棚。 見慣れたコンビニの風景の筈なのに、自分の立ち位置が変わっただけでまるで別世界のようだった。 少し、感動。 「よし!」 感動と共に誠実なやる気も出てきた。 掃除用具はトイレ辺りかと当たりをつけてみるとズバリ。 手順は分からないが、とりあえずゴミを掃いてみる事にする。 初仕事、スタート。
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