暇だぁ~怪盗さじんのある日

10/10
前へ
/68ページ
次へ
さんざんバカ話をして、呑んだからもちろん彩華のとこで仮眠した。 これもいつものことだ。 朝になると机のところでSAJINが何やらごそごそやっていた。 俺が起きだすのを見ると、にかっと笑う。 「さじん、おはよう!」 いつもはこの後、俺のところへダイブしてくるのだが、今日ははにかんで笑うだけで、傍に来ない。 不思議に思って俺は机を覗き込むと、昨日の貝殻を整理しているようだった。 「あい!」 親指の爪ほどの大きさの、ピンク色の貝が手渡される。 さくら貝? 「さじん、あげます!」 その小さくもろい貝殻は、俺のものになった。 「さて、帰るか」 「あい!」 SAJINがぽんっと俺の腕の中に納まる。 「暇だな」 「あい!暇です!」 ちっとも暇そうじゃないSAJINが応じた。 うん。 でも。 こんな暇なら悪くないかもしれない。 まだ白く弱い朝日が世界を照らし始めていた。 この時、俺はまだ知らない。 俺の机の上の白紙の山に、この後しばらくは暇だとつぶやく暇さえなくなる、と言うことを。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加