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ざざ、ざざ。
ざ、ざ、ざ。
鬱蒼と分厚い山々の樹木が音を立てる。
降りしきる雨が白い霧となって、山の空気をひんやりと冷えさせた。
山道を一人の男が歩いていた。
夏の時期、この辺りでは登山者は珍しくない。
「駄目だ。ここではない」
男が忌々しげに空を見上げる。
樹木の壁に視界を遮られて、居る場所を確かめる事が出来ない。
彼が目指しているのは人気のある道路である。
地図の上でも経験から言ってもたいした距離ではないはずだ。
それなのに何時間歩いても山を降りる事が出来ないでいる。
予定ではとっくに下山をしているはずなのだ。
一時間前までは、からっとした空模様だったが、急に雨が降って状況が悪化した。
何度修正しても、いつの間にか方向が狂ってしまう。
山登りに慣れているとは言え、この辺りの山を甘く見ていたつもりではない。
「遭難してしまったな……」
男はげっそりと言った。
もう一度方角を確かめ歩き出して数分ほど経った頃だろうか。
忍び寄った暗闇で一つの気配が動いた。
「誰かいるのか??」
男は足を早める。
ずっと独りで心細かったのだ。
すみません、と言いかけて顔を強張らせた。
凄まじい違和感に襲われたのだ。
相手に声をかけた事を後悔した。
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