第七抄

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鮮血に染まる場。 凄まじい重荷。 二つの光はさらに輝きを強め、目を射るばかりに燃え上がった。 『ギィ……!!』 気圧されたのは餓鬼達の方だ。 その戦ぶりは見事。 異形の瞳をぎらつかせ、雄叫びして、襲い掛かる。 彼等は同じ意思を持っているかのように、滑らかな無駄のない動きで敵を切り倒していく。 『さっきまでの威勢はどうした!仕留めるんじゃなかったのかぁーっ!!』 好戦的なレンは猛る妖気を吹き上げながら勢いを増す。 頭を切り落とし、腕の骨を砕き、腹を突き破る。 どれだけ武器が血に濡れても、勢いに衰えは無かった。 苛烈さを増して、戦場を駆け抜ける。 お互い足りないところをおぎないあうかのような確かな信頼感が存在しているかのように――。 『強イ……!! コノママダト全滅スルゾ!!』 今まで襲って来た餓鬼達は二人の迫力に気圧されてたじたじとなる。 『ふふ、ここまで暴れるのはいつぶりでしょうね。レン……同じ仲間で良かったと思いますよ』 斑尾は荒い息をしながら、背中を預けている若武者に向けて、柔らかく微苦笑した。レンの衣には所々に鮮血がしみている。 『何言ってんだよ……斑尾殿も容赦ねぇな。結構やるじゃねえか』 レンは肩で息をしながら振り返った。 視線が合った。 月光の静寂のあの日。 ――約束をしてくれ。 昏い、底なしの深淵を知る者の瞳の少年。 不安げな瞳をむける二人に、人間の少年は凛と言葉を継ぐ。 もう二度と。 怨みも呪いにも身を焼く妖に墜ちるな。 二度と不幸になるな。 俺はお前達を頼りにしてるぞ。 月光の下、尋常ならざる気を纏う狗御 狂は静かに微笑んだ。 『狂様をお守りすると決めた私達はお前達と違う……!!』 じわりと斑尾の声が漏れる。 爪先を踏み出したのはどちらであったか――。 『――引きなさい、餓鬼達』 ふいに。どこからともなく、声が響いた。 空気に溶けるような声音は女のものだ。 斑尾はぎくりとしたように、動きを止めた。 レンは不審なものを感じ、眉を険しくした。 .
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