第七抄

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キ、キ、キ、と餓鬼達は耳障りな笑い声をあげる。 甘い香り……。 ひらり ひらり。 ――淡雪が空から舞ってくる。 いや、薄紅色の花びらが視界に流れた。 あとからそれは紙吹雪のように。 斑尾は小さく息をのんだ。 桜。 視界を覆い尽くして舞う花びら。 『ほほ……たった二人でここまで来るとは』 桜吹雪と共に潜んでいた者の姿がそこに現れる。 透き通るような白い面をした美しい女だ。 二十歳を少し過ぎたくらいであろうか。 藤という花簪、淡い藤色が混ざった長い髪、 白藤色の打掛(ウチカケ)がよく似合う。 華奢な姿は儚げな印象を見る者に与える。 女は静かに、目を伏せた。 餓鬼達は謎の美女に駆け寄って、「姫様」とはやしている。 『鬼族は一度、憎い陰陽師に滅ぼされた身。再びこの世を手中にする時が来たわ』 次に発した声は、なよやかな外見からは想像できない、呪詛にも似た声音だった。 『鬼姫、やはりあなたでしたか』 斑尾の目にかすかに苦痛に似た光が揺らぐ。 うふふ、と女は小さく笑い声をたてた。 伏せたままの女の瞳に黄金色の輝きが瞬いた! .
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