第七抄

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その瞬間、ふわっ。 間をおいて、餓鬼がいっせいに弾かれたように散らせた。 空気が重く震えるように、場を駆け抜けた波動。 斑尾とレンは理解が出来なかった。 どうっ!! 勢いよく吹き溢れた液体は赤い。 悲鳴をはりつかせたまま、餓鬼の首が湿った音をたてて地面に転がった。 他の餓鬼達がどよめく。 囲んでいた餓鬼達が麗しき姫によって一瞬、地獄絵のように殺された――。 美しい女の髪があおられて、生き物のように妖しく舞う。そしていつの間にか額からは醜い角が生えていた。 ほほほ、と艶やかな微笑。 image=466328021.jpg 『わらわが助けにきたとでも思ったのかしら? 何も役に立たないコマは要らないのよ』 空気が妖気を含んでゆっくりと凍り付く。 儚げな女の身でありながら、殺戮と恐怖の一念で兵を率い、都を震え上がらせた鬼姫(オニヒメ)。当時、斑尾の耳にもその狂気は伝わっていた。 『あの方に早く会いたいわ……ねえずっと待ちわびてたのよ。斑尾、焦らすのはよしなさい』 鬼姫に呼ばれた彼は身を強ばらせ、毛を逆立てて低く唸る。強い風が吹き、空が鳴動する。 斑尾は素早く視線を巡らせた。 『レン、あなただけでも脱出しなさい……!あの鬼は遥かに妖力を増して敵わない相手です……狂様に知らせて対策を練るのです!』 『……は!?』 レンは斑尾の台詞に驚愕する。 鬼姫の殺気がみなぎった。 斑尾にも止める事は、出来ない。 傷の痛みによろけそうになる。 それでも、彼は足を踏みしめてこらえた。 この命と引き換えに足止めを、と狗神はカッと怒らせた。 ありったけの力を絞り出して――。 .
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