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その瞬間、ふわっ。
間をおいて、餓鬼がいっせいに弾かれたように散らせた。
空気が重く震えるように、場を駆け抜けた波動。
斑尾とレンは理解が出来なかった。
どうっ!!
勢いよく吹き溢れた液体は赤い。
悲鳴をはりつかせたまま、餓鬼の首が湿った音をたてて地面に転がった。
他の餓鬼達がどよめく。
囲んでいた餓鬼達が麗しき姫によって一瞬、地獄絵のように殺された――。
美しい女の髪があおられて、生き物のように妖しく舞う。そしていつの間にか額からは醜い角が生えていた。
ほほほ、と艶やかな微笑。
『わらわが助けにきたとでも思ったのかしら? 何も役に立たないコマは要らないのよ』
空気が妖気を含んでゆっくりと凍り付く。
儚げな女の身でありながら、殺戮と恐怖の一念で兵を率い、都を震え上がらせた鬼姫(オニヒメ)。当時、斑尾の耳にもその狂気は伝わっていた。
『あの方に早く会いたいわ……ねえずっと待ちわびてたのよ。斑尾、焦らすのはよしなさい』
鬼姫に呼ばれた彼は身を強ばらせ、毛を逆立てて低く唸る。強い風が吹き、空が鳴動する。
斑尾は素早く視線を巡らせた。
『レン、あなただけでも脱出しなさい……!あの鬼は遥かに妖力を増して敵わない相手です……狂様に知らせて対策を練るのです!』
『……は!?』
レンは斑尾の台詞に驚愕する。
鬼姫の殺気がみなぎった。
斑尾にも止める事は、出来ない。
傷の痛みによろけそうになる。
それでも、彼は足を踏みしめてこらえた。
この命と引き換えに足止めを、と狗神はカッと怒らせた。
ありったけの力を絞り出して――。
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