第七抄

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またもや、その瞬間!キラリ。 光の尾を引いて、斑尾と鬼姫の間に別の気配が応じた。 斑尾がふわりと数メートル後ろに飛び退くのと、光の尾が彼のいた場所を抉って粉砕するのが同時だった。 『あなたは何者ですか……!!』 狐のお面を被った男だ。 白い着物の上に朱色のケープを羽織っている。 斑尾の問いかけに応じる声は無い。 不気味な魔性を帯びた面の男は握りしめた片手を狗神の目の前に突き出し、ゆるりと開いた。 『――!』 ハッと身構えたが、遅かった。 ほんの刹那、その動きに目を奪われていた。 パアァッ!! 目がくらむような輝きが視界を貫いた。 凄まじいばかりの白光の圧力。 わずかに遅れて轟音が大気を揺るがせる。 輝きに包まれて思わず目をつぶった途端、斑尾はみぞおちに鋭い衝撃を感じた。 ザシュ!!肉の裂ける音がする。 『ぐ……おぉっ』 口の中に血の味が広がり、骨がぎしぎしと軋んだ。 その後から感覚が鈍り、ひどく息苦しい。 呼吸が困難になっている。 足の力が抜けた。 視界が揺らいで目に入るものが歪む。 『何や、おまえ。人間の下っ端に成り下がってどうするんや』 初めて耳元で聞こえた声。 冷静になんの感情も交えず。 深い意識の底で斑尾はその言葉を反芻した。 (聞き覚えがある。……これは) 斑尾は愕然と目を見開いた。 面影。 目の前の相手の姿と、遠い記憶のそれが重なった。 (嘘だ。こんな事は望んでない。この再会など) 『狂様は違う……』 遥かな昔、共に山を駆け抜けた旧友。 銀露(ギンロ)、と呼んだつもりだが、声にはならず斑尾の意識は闇に沈んだ――。 .
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