第七抄

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* * * 時刻は五時少し前。 朝の良い天気はがらりと曇りが混じった夕暮れに変わっていた。 いつも通る商店街は早くから明かりを灯し、買い物客や通学路にしている制服の学生達もいる。 「茜ー、ちょっとカフェに寄ろうよ。狗御君も一緒に連れて来てよぉーきゃははっ」 二人の後を追う女子達がきゃらきゃらと笑い声をあげた。 カフェという名につられて振り返った茜を横目で見た狂は舌打ちした。 彼はとにかく、女子達と戯れる事に興味が無い。 「――?」 数歩先に行きかけた狂は足を止めた。 すっと視線を宙に向ける。 宵の訪れが近い場にひやりとするものが混じりこんでいる。かすかな妖気だ。 何かが、聞こえる。 ばさり、と翼を打つ音がして、見下ろしていた黒い影が空に向かって舞い上がった。夜そのもののような黒い鳥達。 その姿形をとった式神達であった。 ぎぃぎぃ。 逢魔が時に鳴き交わす鳥達の声は何かしら不吉な……。 違和感を感じた茜も同じように見上げてギクリとした。 「あれ?どうしたの、二人とも?」 クラスメートが不審げに向けてくる眼差しに狂はちらと見ると、素っ気なく返事をする。 「急用が出来た。これ以上付いてくるな」 とり澄ました彼の表情にいささか剣呑なものを感じて女子達は首をすくめた。 狂の眼差しが鋭さを帯びている。 理由は茜にもすぐに分かった。 彼女もそそくさと断ると、急ぎ足で歩き出した狂を追いかける。 やはり、茜の思った通りだ。 さっきまで周りの声に興味を示していなかった狂の目つきが変わっている。 なんと言えばいいのだろう、 まるで地獄の鬼達をも恐怖で震え上がらせてしまわせるような目だった。 「ねえ。さっきの式神……」 「康子のだ。斑尾とレンが深手を負って帰って来た――」 そして、生と死の一線ぎりぎりの所であると。 狂の言葉は血生臭い状態であることを告げている。 寒気を覚えて茜はごくりと喉を鳴らした。 商店街を抜けて少し歩けば、閑静な住宅地に入る。 あたりに人気が途絶える。 目的地はもうすぐそこだ――……。 .
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